手仕事屋きち兵衛
(日本)
「風暦」(00年作)
1.安曇野 2.ふる里景色 3.生きている悲しみ 4.ふる里に帰りたい
5.いつの日にかあなたと 6.ホリディ 7.印象派 8.木更津にて 9.秋の日
10.花束をあなたに 11.安曇野 〜reprise〜 12.わすれ雪(ボーナストラック)
長野県出身の男性歌手のリメイク作。
TSUTAYA某店にて、中古で100円で販売されていたので購入してみた。
ネットで調べた所、歌手以外にも作詞・作曲家、彫刻家、
エッセイストとしても活動している方である。
その経歴を短くまとめてみると、
音楽の道を志し、音楽大学進学を目指すも、諸事情により進学を断念。
しかし、音楽の道を諦める事無く、木彫刻を生業としながら
作詞、作曲を行ない、放送局へ投稿していた。
(その最中に長野県主催の彫刻工芸展の奨励賞を異例の20代で受賞している)
86年に音楽作家としてデビューを果たし、次いで歌手としてもデビューする。
以降、TVドラマの主題歌や学校の校歌の作詞、作曲を手掛けるも、
家庭の事情により、音楽活動を一時休止し、本業の木彫刻業に専念する。
その後、99年に音楽活動を再開。現在に至る。
きち兵衛氏のVo.は優しく、繊細な澄んだ高音でありながら
素朴といった、ソフトな美しい歌声をしている。
今時のJ-POP系の高音シンガーには居ないタイプだが、
30〜40年前辺りではこの手の声質の歌手は割と多かったと思う。
今作は過去の作品に収録されている楽曲等を全て生楽器による伴奏に
アレンジし、リメイクした作品である。
楽曲の音楽性はミドル、スローテンポの歌謡フォークで、曲によっては
AORやポップスっぽさがちょいと感じられるな。以前にレビューした
「栗山真治」の作品とは違い、今作がウケる年齢層はモロに中高年世代だ。
1〜4、8、12曲目は
メランコリックかつノスタルジックで和の雰囲気を持ち、
昭和初期〜中期の哀愁を放ちまくる情感に溢れたメロディーは
中高年世代や哀愁メロ好きにはたまらんモノが有るだろう。
5曲目はアコギとストリングス(多分)の優雅で美しい絡みで始まり、
歌メロはアコギの素朴なメロディーに乗せて静かに歌い上げ、進行。
途中からちょいとジャジーでムーディーな曲調へと展開する。
一時、大人の穏やかな時間を堪能出来よう。
6曲目もちょいとジャジーでムーディーな曲調だが、こちらは
優しく、幸せな雰囲気を持った日常的メロディーだ。
7曲目は暗い雰囲気を醸し出すピアノのドラマティックなメロディーに
乗せて歌い上げるメランコリックな哀愁バラード。
途中から加わるGt.やBa.も雰囲気の演出に一役買っている。
9曲目はちょいとポップス寄りで、楽しい雰囲気の感じられる
明るく、穏やかなメロディーの曲だ。
10曲目は安らぐ様な穏やかさを感じさせるメロディーの曲だが、
その穏やかさの中に人生の黄昏めいたモノも感じられる。
肌寒さを感じさせる冷たい風の様に流れるストリングスが
雰囲気を助長しているな。
1曲1曲が高品質な出来で捨て曲皆無。
・・・という部分だけ見ればかなりの良盤なのかと思うかもしれない。
まあ、確かに1曲1曲の出来は良い。ただ、もうちょい多様性が欲しかったな。
聴く人によっては途中でダレると思うぞ。
グイグイ来る躍動感とか、そうした音楽のスリル等とは
大きな距離が有るけど、この音楽性にそれを求めてもねえ・・・。
ハードでアグレッシヴかつメロディアスなロックやメタルも良いが、
たまにはこういう作品に聴き入ってみるのも良かろう。
普段、この手の作品をほとんど聴かない、というかあまり好みでもない
馬徳から高評価を得る事が出来たのだ。
この手の音楽性を好むリスナーならばもっと評価は高かっただろう。
間違い無く買いの作品だし、個人的にも強くオススメ出来るな。
評価 82点
1,2,3,5,6,7,10,12がオススメだ。